良い住まいってなんだ?

皆が認めるいい住まいなんてない!

小川邸  広い家、天井の高い家、明るい家、冬暖かく夏涼しい家、豪華で贅沢な家など良い家のイメージはたくさんあります。
 みなさんが建築家や大工さんに家の建築を発注する時も、このような言葉で自分の希望を伝えるのではないでしょうか。
 しかしこういう、一見誰にとってもよい家のイメージも良く考えてみると全ての人に当てはまるわけではありません。
 狭い家のほうが落ち着く、天井の高すぎる家は居心地が悪い、薄暗い部屋の方が安らぐ、冬寒く夏は暑く、季節の移り変わりを実感したい、質素でシンプルな生活をしたいという人もいるからです。
 物事の価値をお金に置き換えて考える傾向が強くなるにしたがって、広くて天井が高く、暖かく涼しく、贅沢な家が全ての人にとって価値があるように思われてきたのではないでしょうか。少なくとも全く無関係ではないような気がします。今述べたよい家はすべて安価よりは高価になってしまう家だからです。
 家ではなく部屋に置き換えて考えてみますと、より簡単に理解できます。狭い方が落ち着く部屋、暗い方が心地の良い部屋は誰でもイメージすることが出来るでしょう。
 つまり、100人いれば100種類のよい家、よい住まいがあるのです。


子どもたちと家を作って

間伐材で家作り  立ち止まってじっくりと家というものについて考えるきっかけを作ってくれたのは、子どもたちとの家作りの体験でした。
 2002年から毎年夏休みに、私は文部科学省の補助金で全国各地の山に入り、子どもたちと10日間合宿して、間伐材などを材料とした家作りをしています。デザインも建築も子ども達の手で行い、大人は原則として手助けをするだけで口は出しません。
 子ども達には見栄もなければ競争心もありません。広すぎると思えばさらに囲いを作って狭くし、明る過ぎると思えば木の枝や簾で遮光します。大切なものがあればそれを保管する棚を作り、トランプなどのゲームをしたくなればテーブルを作り、雨が降れば部屋の中心に移動し、蚊に悩まされれば蚊の来ない高い部屋に移動します。
 家はこうでなくてはならないという固定観念がないのです。子どもたちは素直にこうしたいと思うものを作るだけです。
注・写真に写っている男性は私ではありません。
 
本当にいいものは目に見えない

けやきコミュニティーセンター  星の王子さまの一節にこのタイトルに似た言葉があったような気がします。
 別に基礎や土台の手抜き工事や、壁の内側や天井裏の梁や桁など構造材のことを言っているわけではありません。それらは仕上材を剥がせば目に見えます。
 例えば広い家、明るい家は目で見れば分かります。断熱性能のよい家も計測すれば目に見えます。最新の設備類も目で確かめる事が出来ます。こんなところにもあんなところにもというように思いもよらない場所に隠された収納も目で見ることが出来ます。
 今、ハウスメーカーなど住宅産業はこの目で見える部分で、よい結果を出すことを目指して研究を続けています。言い方を変えるとその良さが分かりやすい住宅を作ろうとしているということができるでしょう。新築の家にお客さんが訪ねて来た時、説明しやすいということも出来ます。
 本当によい家は説明することができません。その良さが目に見えないのです。
 理由は分からないけど居心地がいい。ここに来るとなぜか落ち着く。外にいても早くここに戻って来たくなる。
 本当にいい住まいとはそういう住まいを言うのではないでしょうか。そしてそれは目で見ることも説明することも出来ません。研究を重ねれば結果が出るわけでもありません。
 しかし人には必ず、その人にとってのそういういい住まいがあるはずです。

 
家を建てるなら自分の好みを知ろう

松本邸  日本の家のデザインや工法、設備のあり方などには流行があります。30年前の家と今の家では見た印象でさえ全く違います。
 その時代時代での日本人の夢や好みの平均がそこに盛り込まれているのでしょう。
 しかし前述の通り、全ての人々の夢や好みを平均化するすることに意味はありません。100人の人がいれば100通りの夢や好みがあるからです。
 家を作るとき大切な事は、まず自分の好みを知る事です。
 静かで落ち着いた家が良いのか、それとも人の集まるにぎやかな家が良いのか。明るくて健康的な家が良いのか、シックで精神性を重視した家が良いのか。普通の家が良いのか、個性的な家が良いのか。和風が良いのか洋風が良いのか。(一言に和風と言ってもお屋敷風、民芸風、数奇屋、ジャポニカと大きく分けても4種類もあります)外観重視かインテリア重視か。エアコン、バスルーム、オーディオ、セキュリティー、パソコンなどの最新設備を完備するのか、それとも昔ながらの最低限の設備で良いのか。
 さらにその家でどう過ごすのか。休日にはのんびり昼寝を楽しむのか、音楽を聴くのか、家族や友人とのコミュニケーションを計るのか、趣味に費やすのか。
 それらを出来るだけ具体的にイメージすると、徐々に自分の好みが明確になってくると思います。そこで出てきた好みが、世界に二つとないその人にとっての良い住まいのイメージなのです。


好みを形に−家作りを誰に頼むか

宇都邸  ハウスメーカー、プレハブメーカーの住宅は既製服に相当します。モデルハウスなどで完成した姿を見ることができるという安心感がありますが、きめ細かい要望には答えきれないという一面も持っています。自分の好みに近いメーカーがあれば発注するのも良いと思います。
 大工さんに頼むという方法は、自分の考えをどう伝えるかが最大のネックになります。設計部を持っている工務店なら図面の段階で打合せを持つことができますが、平面図だけで作り始めてしまう大工さんもいます。
 建築家にも二つのタイプがあります。
 一つはその人独特の個性的なデザインを持っていて、それを作り続けるタイプの建築家です。モダンで奇抜なデザインをする人が多いように思えます。好みがぴったりの人がいたらおすすめです。デザインが決まっているという点ではイージーオーダーに相当します。一般に建築家といえばこういうタイプが多いと思われているように思いますが、実際はそうでもありません。
 建築家のもう一つのタイプは自分のデザインではなく、建て主の好みを聞き取って形にするタイプです。オーダーメードだということが出来るでしょう。建築家の8割はこういう形で仕事をしています。私も自分ではこのタイプの建築家であると思っています。写真を見ていただければ分かるように同じ人間が設計したとは思えないほどいろいろなデザインをしてきたからです。デザインはすべてその仕事のお施主さんの好みです。
 ハウスメーカーにも大工さんにも建築家にも頼まずに、自分の好みを形にする方法があります。
 自分で設計するという方法です。それについてはこのホームページ『自分の家は自分で設計』に詳述してあります。


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